ウェールズのオモシロお宅訪問記>>> メニューページに戻る ェールズのオモシロお宅訪問記2
イギリスの人々にとって生活の中で大きな位置を占めるインテリア。ここウェールズでも人々の家を訪ねるとインテリアに対する強いするポリシーと個性を見ることができます。
ドアを開けて迎えられ、そこに広がる想像を超えた世界に出会う度に筆者は嬉しい驚きと興奮を覚えます。
純粋なインスピレーション
今回ご紹介するのはサウスウェールズ郊外のデタッチドハウスに住むJさんです。
デザインエンジニアのJさんは仕事柄、家の設計、DIYから内装、庭づくりまで全てを手づくりして奥様と二人暮しの素敵な城を築いています。
Jさんのインテリア作りはすべてが自然体。
リビングルームの不要なファイアースペースは潔く撤去し、そこには古い石を敷き詰めて石の床の間を作ったり、アンティークの鍵をアールデコ風に組み合わせ
てアクリル樹脂で固め見事なサイドテーブルにしたり、また庭づくりは土台から土を掘り起こして快適な水辺スペースにしてしまいます。

ヴィクトリアン時代の石を敷詰めた床の間

鍵を模様化したサイドテーブル
Jさんにとってインテリアづくりはインスピレーションとハーモニーだといいます。
興味を感じたものは自身の手を加えてみることで生活する楽しさが増し、手づくりをする過程を延々と楽しむことそのものが醍醐味を感じるとのこと。難しく考
えずに興味と関心を持ってインテリアへのかかわり方を熟成させ、暮らしに浸透させていく、その状況がエキサイティングだと言います。
日本的な世界とインテリア
Jさんは日本文化が大好きで、来日すると早朝から京都の骨董市・盆栽市に出掛け気に入りの品を購入します。純粋にときめいたものはアンティークかどうかなど気にせずに買い、またそれを気負わないでインテリアにとりいれているといいます。

曲線の美しさが気にいって購入した和の花瓶と 3歳の時に手づくりしたコッパーの灰皿
「購
入したものを苦労しながら妻と手分けしてサウスウェールズに持ち帰り、しばらくは何もしないで家の倉庫に置いておくのです。その魅力を模索して何に使える
かなと考えたりしているうちにアイデアが浮かんで制作に入ります。昨年は京都の北野天満宮の市で民芸運動の産物のようなエレガントな竹の花器を買いまし
た。でもこれを我が家で花瓶として使うにはどこか違和感がある、そこで花器の底部分に穴を開け照明を作り、妻の仕事部屋に設置してみた。すると、部屋の
アールデコ風の家具に合って彼女の好きなアーツ&クラフト風の空間になった」。

竹の花器を改造した照明
Jさんの作品は日本の民芸運動の持つあたたかみに似た個性を感じさせます。常識にとらわれず手作りの良さを純粋に追求する彼の精神が作品にその雰囲気をかもし出しているのかもしれません。庭の水辺、またそこにある照明台もまたそんな暖かさにあふれています。
緑の苔が美しい水辺とカーブしたフォルムの竹の照明台。この立派な空間をJさんは基礎工事からはじめて石並べ、植物の生長する環境づくりまで全てを手づく
りしました。土台を設置したのが約5年前、その後はガーデニング好きな奥様とともに植物の手入れに気を配りながら素敵な水辺にしていきました。
心地のよい水流の響きはく24時間稼動し、照明台のグラスブリックとフローティングライトで夜には癒しの光景を楽しむことができます。

日中の水辺

夜の水辺
苔の魅力
「きっかけは苔が美しく生えた和庭の水辺をつくろうというのが始まりでした。丸い石を積み上げたりして土台ができ、苔をどうやって増やしていこうか
と・・・いろいろ工夫して日本の苔なども植えて苦労しました。そんな矢先、庭でバーベキューをした後そのまま放っておいた鉄板の炭の上のふっくらとした美
しい苔を見つけたのです。これだと思い丁寧に水辺に移して、ピンセットで手入れをしながら育てました。やっぱりサウスウェールズ地元の苔を自然に増やして
いくのが一番良いとわかった」。
Jさんにとって苔はここ数年来最大のマイブーム。その魅力は「心が安らぐリッチな緑色の世界」とのこと。この水辺を作る以前の庭はイギリスのどの家庭にも
あるような芝生でした。「芝生を維持させようとすると苔がじゃまになり気になりだすとやはりケミカルなものを使ってしまうことになった。そんなことをして
まで芝生を大事にするのはどうかと思いある時期からもう放っておいたのです。そうすると数種類の元気な苔が増え始め、その緑色のソフトカーペットのような
感じに興味を覚えたのです」。
「苔が自生しながら増えていく様子を見ていてその美しさに心を打たれずにはいられませんでした。湿り気をおびて光に映える神秘的なベルベッドのような緑の
一つづつはか細く繊細なのにまわりの仲間たちとともに呼吸し、季節をすごし、生長していく・・純粋な自然観に感動しました」。

Jさん自慢の苔
苔
について語り出すとJさんは話がつきません。今後は苔についてさらに研鑽してケアを重ねつつ、基本的には自然に増えていくようにしていきたいとのこと。気
の遠くなるような作業ですがJさんは将来が楽しみと言います。苔の様子に心を向けながらなるべく自然の状態に任せていく、まさに和庭の思想といえます。自
然と対立するのではなく自然のなかの尊いものを感じ取りそこから教えを受けるという提え方です。その一方で庭づくりにおけるイギリス人らしい一貫したポリ
シーと個性を見ることができます。だれに評価されるでもなく自分が好きな世界を素直に実現していく、そこには何より自身がつくりあげたという自信にあふれ
た強い自己主張があります。
苔の園で緑色の休み時間
水辺の苔庭を充実させるためJさんの追求はサウスウェールズにとどまらず、なんと日本まで飛んで研究を始めました。
「難しい話ではなく緑に苔むした理想的な場の中に身をおいてみたかったのです」。
苔寺で有名な京都西芳寺、石川県の苔の園など苔と名のつく各地を訪ねます。まさにサウスウェールズのJさんにとって日本での”緑色の休み時間”を過ごしたとのこと。
「息をのむような光景にとにかくもう言葉を失いました。苔が群生した沈黙の中に居て信じがたいほどの心の平和を覚え、この世の天国だと感じました。特に小
松市の”苔の園”は人知と自然が共存した僕の理想の園でした。多くの異なった苔がそれぞれの特性にあわせて自然に広がっていてその豊かな多様さが素晴しい
のです。緑の色だけでなく匂いや空気感すべてに魅了されました。写真を撮影しようとした妻は「あなたの身体から何か光るものが出てる」って言うのです。後
からその写真を見ると本当にオーラにみたいなものが写っていました。僕の感動した気持ちがエネルギーとなって発散されたのでしょうね」。

Jさんのこの世の天国・石川県小松市の苔の園
日
本でも最近コケ玉づくりなどが流行っているようですが、Jさんの苔に対する深い感受の度合いは趣味的に楽しむというより、どこか禅の教えの「不立文字、教
外別伝(ふりゅうもんじ、きょうげべつでん)」が示されているように思われます。本当に重要なこと、大事なことは、文字や言葉、形では表現し尽くせない。
沈黙の中で自分で会得していくしかないのだと。ウェールズのイギリス人にしてそうした日本的な自然観を持つJさん。不思議な気もしますが彼のインテリアの
様子を概観するとなんとなく納得させられます。
日本のイギリス趣味を見て感じたこと
Jさんは日本のイングリッシュガーデンやコッツウォルズストーンの家にはやはり閉口してしまうといいます。「そうした庭は量感と色をマニュアル通りに設計
しいかにして綺麗で豪華なゴイングリッシュガーデンと同じものを作るか・・・という人為的な植栽計画にエネルギーが投入されすぎているように感じます。庭
だけでなく建物も同様にヴィクトリアン風の家や、各家がその特徴的な立て方を競い合い美しい景観という様相はありません。例えば埼玉などの地方都市に行っ
た時、僕は非常に落ち着かない気分でした。美しい田畑のある日本的な緑の空間にそぐわない家々やディズニーランドの玩具を並べたような庭・・・残念な気持
ちがしました。景観というと京都の鴨川に沿った住宅地は水辺と家並みが共存した素敵な調和感があった。自然の色と木造建物の伝統的な色が混ざり合って本当
に快適でした。自然に対する慈しみ・感謝・尊敬といった日本ならではの美意識を感じました」。
Jさんのこうした指摘は自然を慈しみ寛いだ気持ちで暮らしていく、というイギリス人の豊かな価値観であるとともに、京都・竜安寺の蹲踞(つくばい)に刻ま
れている「吾唯足知」という言葉、あるがままの状況を受け入れて満ち足りた気持で生きていくという意味に通じるものがあります。環境や生活様式が著しく変
わっていく現代の日本で、私たちは地域の自然が持っている大切さよりも、ガーデニングも家もイギリスの外側をなぞることに目を向けがちで、Jさんのいうイ
ギリス的な快適さを追及すればするほどそれは日本の美意識の根源にあるものだと感じました。
左右非対称の教えとハーモニー
このように日本的な美意識にも傾倒するJさんは和の庭に見られるアシメトリーとアートヌーボーの自然観を家の各所に用いています。植物が作りだす曲線や自然なフォルムに生命の豊かさを想い、余白の空間によって心の安らぎを覚えるといいます。
「イギリスの左右対称の美、間を与えない極度な装飾は僕には耐えられません。ヴィクトリアン、チューダー様式の完全な左右対称の世界は作り手の過度な正確
な構造を称え、量感と多くの色を綺麗に並べるという人為性に主眼がおかれ、人々のインテリアもシンメトリーが良いとされています。これは僕にとってリラッ
クスできる世界ではありません。花模様と写真や絵を壁一面にはりめぐらすリビングルーム・・・息をつくゆとりもありません。左右対称を追求していくと人為
の完全性・直線の精緻さを要求され、不完全な自然を征服していくというおごった人間の道を選ぶことになる」「アシメトリーな不完全なフォルムに僕が惹かれ
るのは自然の生命力を感じることができるからなのです。だから僕の家にはイギリス的じゃない左右非対称自作品ばかりです(笑)。リビングルームの壁にもあ
えて何も飾りません。余白のスペースがあることで置いているモノのコントラストがよりはっきりしてくるから。ここには優美な曲線が美しい古木とクリアプラ
スティックを組み合わせて制作した照明を置いています」。
古木の曲線の優美さとスマートなシェードが魅力的な照明
「玄
関ホールには、曇りガラスにアートヌーボーの図案を用いて装飾ウィンドウを作りました。ここの照明は京都の骨董市で買った中国のアンティークの提灯をとり
つけてエレガントなエントランスにしています。僕がアートヌーボー好きな理由は植物をあらわした美しい曲線が自然だからです。デザインしているというより
100年前から既にそこに生えていたという印象の自然観があるからです」。
アートヌーボーを用いた曇りガラスの装飾ウィンドウ
東寺市で購入した中国のアンティーク提灯
「キッ
チンは左右非対称のコントラストを重視して、好きなペールグリーンを基調に設計し、手づくりしました。長方形の角張った空間に優しさが生まれとても快適な
キッチンとなりました。僕らにとっては利便性よりも気分よくキッチンでの時間が過ごせるかどうかが大切なのです」。
快適な時間を過ごせる曲線デザインのキッチン
Jさんが指摘するように曲線には人の気分を穏やかする自然の叡智のような感覚があります。そのフォルムが感じさせる余韻は、日本的にいうと妙味の奥深さであり、空気感の追求というまさに和の庭の精神です。
「庭には、西洋文明の影響を受けた大正〜昭和初期の街頭を修復して設置したのです。するとヴィクトリアンの建物にすごく調和し素敵なムードができました」。
西洋趣味の大正時期の照明
「僕
は家のすべてのもの同士のハーモニーを大切にしています。自然と人が共存することで学びがあるように、モノとモノも共存してこそ安らぎが生まれるからで
す。家の中のハーモニーを無視するとそこにいる僕たちが何よりも不快な影響を受ける。こんなエピソードがあります・・・家の掃除をしていた妻がある日、西
側の壁をイエローに塗りたいと言い出したのです。風水の本を見るとそう書いていたからと。でも僕は家の中のハーモニーがこわれるからやめようと、しかも彼
女も僕もイエローは嫌いな色、そんな色の中で過ごして快適なはずがないと。僕らにとっての風水はこの場の磁力というかエネルギーを繊細に感じとって、快適
な調和した空間をつくっていくこと、つまりだれかが書いたインテリア理論に迎合してそれにすがることじゃないでしょう、この空間の持つ自然のエネルギー
は、僕らが時間をかけて何かを感じとろうとしていくと、どうすればいいのか教えてくれるはずだからじっくりとみていこうと、納得したかどうかわかりません
が彼女はいつのまにか黄色いペンキ缶を片付けて機嫌よく掃除を再開していました(笑)」
日本と同様に風水はイギリスでも最近流行っていて、IKEAの店員さんまでこの机は木製だから北西に置くと仕事運がつきますよ、とセールストークに風水ネタを入れたりします。Jさんに言わせると自然からの学びを無視した驕りとか。
「大げさかもしれませんが僕にとっては自然の驚異を肌で理解しないことは自分の成長をストップさせることだと思っています。何度も繰り返しますが自然のい
となみの中、自分の心の内側を覗いた中に大事な教えがあると思うのです。そのためにも僕にとってインテリアづくりは心を解き放し、自身を見つめ直すきっか
けをつくる大切な行為でもあるのです。技巧にこだわり自然を無視した人為性の強い表現や空間に心のゆとりや学びは生まれてこないと思います。モノや自然と
ちゃんと対峙しそこから何かを感じ取ってこそ、成長していける、そう思うのです」。
インテリアづくりを精神修行のようにこうして真剣に突詰めるJさんのその様子はその発言と反比例してとても穏やかです。あるいはモノを作る沈黙の中で会得
した余裕が彼の豊かさなのかもしれません。Jさんのインテリア、そして作品をとおして筆者は日本人の美意識、物づくりの心の大切さを教えられたような想い
がしました。
(ミマ・ナック記) |