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KenのWales 便り - No.8 " 職人♪♪"

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                                                                      岡本賢一  

 

私がここ30数年来愛用しているニコンの双眼鏡がある。 レンズ口径50mm、7倍という比較的大型のもので、しっかりとした革のHard Caseに入っている。 本体は、昔冬の山に持っていき稼動部分を凍らせてしまい、そのときに一度オーバーホールしたきりどこも不具合もなく今も愛用している。 問題はこのハードケースで、もう数年前から、いやひょっとすると10年以上になるかもしれないが、皮の縫い目の糸が老化して切れてしまい、蓋や内張りがばらばらになって、ケースの役目をしなくなっていた。 

 

そのおり、ニコンのサービスに修理の依頼をしたが、今ではこの革の縫製が出来る職人が日本にはいなくなり、修理の引き受けは出来ないと断られた。それほど特殊な縫製とも思えず、その後、カバン屋や靴屋などを当たってみたがどこも同様の答えで、今では不可能とのことであった。

そのうちの一軒のかカバン屋が、中国に行けばまだその職人はいるので中国なら修理できるよと、アドバイスしてくれたが、中国まで行って修理に出す機会も無く、不便な思いをしながら今日まで使用してきた。 昨年からこのAbergavenny に住みはじめて以来、時折休みに町をぶらついているが、商店街の中でまったく目立たないが、何かやっている店のようなものがありちょっと気になっていた。 

 

あるとき、ひょっと中をのぞいてみると、修理中と見える革の鞄やら靴やらが無造作に置いてあり、修理道具と皮の切れ端が散らばっている。 うん、ひょっとしたら、ここで件のケースの修理をやってくれるかなと淡い期待で、古ぼけた扉を開けて中に入ってみた。すぐそこが修理作業場になっており、年季の入った作業テーブルがあり、皮切りナイフやら千枚通しやらが散らばっていた。 奥から、おじさんが出てきて、‘何か用ですか?’というので、‘実は、双眼鏡の革ケースで、糸が切れてばらばらになったので修理してほしいのだが’というと、‘ああ、それなら多分出来ると思うが、私は留守番で確約が出来ないので、今度、弟(弟が職人らしい)がいるときに現物をもってこい’、という。 そこで、次の土曜日に現物を持っていそいそと出かけた。何しろ土曜日は朝の10時から昼の12時までしか開けないという商売っ気の無い店である。 私が入っていくと、50歳くらいの職人がいて、もう話が伝わっていたらしく、‘ああこれか’という。 一目見るなりこれは修理に手間がかかるから高いが、いいか、という。 長年不自由してきたので修理さえ出来れば幸せと思い、いくらかも聞かず、頼んできた。 

ひと月ほどすると修理ができたという連絡があり、とりにいった。 実を言うと英国の修理は出来映えなど関係なく、使えればそれでよし、とするようなところがあるので、出来映えについてはあまり期待していなかった。 ハイこれだよといって渡してくれたケースを見たら物の見事に修理がなされていた。 大変しっかりときれいにステッチがなされており、しかもその上からきちんとステッチ止めが施されており、なかなかの仕上げである。 それで思わず‘Oh Beautiful!’といったら、このおじさん‘当たり前だろ’というような顔をして‘俺の仕事だからな!’とボソッと言った。日本では、いろいろなものがほとんど使い捨てになってしまい、修理などしなくなったので、こうした修理専門の職人は成り立たなくなったのであろうが、この国は数が減ったとはいえまだまだ存続しているところがすばらしい。 人々が何回も修理を重ねながらとことん物を大切にして使い切るからこうした職人が今でも生きているのであろう。Walesの片田舎でこんな修理が出来るとは思いもしなかった。  ちなみに、高いよといった修理代は、なんとわずか10ポンド(日本円で約2000円)であった。 

                                                                                                                             200411月中旬

 

   

 

 

店の写真(洋服屋の左隣、真ん中のなんだかわからない店)